DIARYダイアリー
ゴミ拾いは宝探し
2024年9月11日
幼少期から富士山の清掃活動に参加していた私はゴミ拾いをまるで宝探しのように楽しんでいた。出てくるのは不法投棄されていたゴミ。時には古い食器やおもちゃが出てくることもあり、まるで過去の断片を掘り当てるような感覚だった。そして今、標高5364mのエベレストベースキャンプで清掃活動をしている自分がいる。
この活動は父が1997年に始めたもので、最後に活動してから16年の時が経っていた。6月にシェルパの方からベースキャンプの清掃活動をしないかとの提案があり、ネパールにやってきた。ネパールにくるのは、アイランドピーク以来一年半ぶりで、通算5回目。長期滞在することが多いこの国は、訪れるたびにまるで帰ってきたような感覚に包まれる。
いつもと違うのは雨季のシーズンであること。毎日のように降る雨が視界を遮るので、エベレスト街道はオフシーズン。トレッカーが少ない。しかし、空からの栄養をたっぷりと受け取った草木は美しく、冬には見られない色彩豊かな自然が広がっている。
幻の花、ブルーポピー。ヒマラヤでは標高5000メートルを超える場所で咲く。暑さに弱く生育が難しいお花なので幻と呼ばれている。部屋に飾られているブルーポピーの写真を見ながら、父はよく「雨季であろうと訪れたい理由はこれを見るためだ」と話していた。それほどの魅力のあるお花を一目見てみたかった私は、ベースキャンプへ向かうなか、しきりと青色ばかりを探していた。幻の花は岩陰にひっそりと咲いていた。見頃の時期は終えていたものの、雨粒を纏った花びらはガラスのように透き通っていて、繊細な美しさを感じた。触れてしまったら壊れてしまいそう。そのブルーポピーの傍に、何十もの蕾を咲かせている紫色のお花が咲いていた。無数の鈴がついているようで風が靡くと共に音が鳴りそうだ。砂地という栄養の少ない場所で、こんなにも立派に咲く命もあるのだ。
美しい花々の目と鼻の先にあるベースキャンプ。そこからはモレーンが果てしなく続き、氷河の溶け水が小川を作り、その先にはアイスフォールが広がっている。氷と岩のみの世界、命を感じ取れないこの場所に、ゴミという形で人の生活の跡が残っている。ベースキャンプより上のキャンプ1のゴミが、何十年もの間氷河とともにゆっくりと流れ、ここにたどり着いたのだ。缶詰、ハシゴ、アイゼン、手袋、ボンベ、お菓子の袋、サングラス、過去に登山隊が残していったものを拾っていく。中には日本の缶などもある。見た目からしたら、80年代くらいだろうか。長い間氷河の中で時が止まっていた昔の登山道具を回収していくのはまるで宝探しのようだった。しかし、標高5000メートルを超える過酷な環境は体に重くのしかかる。カラパタールに登るのよりも辛い。8000mを超えたキャンプ4で清掃活動をするとは、一体どれほど過酷なのか想像しきれない。エベレストに登るよりも辛いかもなと父は話していた。
総勢11名のシェルパ達と共に2日間で300キロのゴミを回収。ひとまず、今回はこれにて終了。しかし、氷河の奥深くにまだ眠っている人間の忘れ物が、私の頭の中から離れない。